フィヨルドの滝2
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トップ > 週刊バルトジャーナル175号から
訴訟に発展、バルトの空を制するのは?〜ラトビア〜

 

前編:airBalticが最有力!


ラトビアが官民上げてバルト3国の空を制そうとしている。

10月24日のバルトジャーナル記事(3年以内にリガ市内とリガ国際空港を鉄道で直結!)にも紹介したがリガ市内と空港を鉄道で結び、その利便性の向上によりリガ同様にバルト3国の空を制したいタリン、ヴィルニスを一気に土俵際まで追い遣ろうとしている。

ラトビアのナショナルフラッグであるairBalticがバルト3国で今最も積極的に新路線の開設や価格競争で他社を圧倒している。

同様にリガ国際空港は新規に滑走路を延長し、大型機体がリガへ就航できるように取組んだことで正に他を引き離すが如く、積極的なリガのハブ化に取る組んでいる。

リガ国際空港は、空港としてバルト3国の空を制するだけではなく、更に遠方となるCIS諸国、そして中央アジアへのフライトを増やし、これまでロシアを介さなければ行けなかった地域にも足場を固めようとしている。

新たに拡張された滑走路は3200メートルとなり、これまでよりも650メートルの延長に成功した。

これで長距離を飛行できるAirbus A-380が就航できることになる!

これにより規模だけではあるが、ストックホルム(アーランダ空港)やヘルシンキ(ヴァンター空港)と方を並べることが出来るようになった。

現在は、バルトを中心とした地域路線の拡充に走っているが、将来的には上記したストックホルムやヘルシンキを差し置いて、北欧のハブ空港になることを目指している。

つまり、遠方への路線、アジア、北米、中東、アフリカなどへの長距離フライトの就航をより積極的にマーケティングしたいと考えている。

そういった動きに対し、地域人口最大を誇るリトアニアがヴィルニスの地域のハブ化構想を打ち出し、この戦いに参戦しようとしていた。

実は、airBalticの株主はスカンジナビア航空(SAS)とラトビア政府となっていた。

長らくラトビア政府は同社の売却意思を持っていた為、SAS側から政府持ち株の買取を表明していた。

しかしながら、airBalticの成功を見たラトビア政府がその売却意思を白紙に戻し、態度を硬化させたことを受けて、SAS側が完全子会社化を諦め、持ち株の売却を決めたことに始まる。

双方の持ち株比率は、SASが47.2%、ラトビア政府が52.6%といった具合だ。

このSASによる持ち株の売却意思表明により、ラトビア政府の他にもう1社、株の買取に動いた企業があったというのだ。

それがリトアニアのflyLALだ。

同社の株式100%のオーナーは、flyLAL Goup ABという投資コンソーシアム(投資共同体)で、このメンバーにはリトアニアを中心とした官民企業が入っている。

つまり、リトアニアとしては、airBalticsを傘下に置くことで自動的にリガを制し、起死回生の一手として、バルトのハブをヴィルニスに持って来ようという戦略があったと思われる。

そんな人気者であるairBalticは、最近もアムステルダム、ハノーバー、タンペレ、ドバイなどへの路線を拡充し、リガから世界の49都市を結ぶことに成功している。

最近、バルト3国で人気を博すエジプトへは、シャルム・エル・シェイクとハルガダへの直行便を就航させており、欧州の著名都市だけではなく、モスクワ、キエフ、キシノウ、カニングラード、イスタンブール、バクー、アルマトイ、ミンスク、タシケント、トリビシ、テルアビブ、オデッサ、エレヴァンといった地域にまで足を伸ばしている。

そしてこの8ヶ月間の搭乗客数は169万6826人に達し、07年同期比では32%の増加を記録している。

バルト3国にはairBaltic、flyLALの他にエストニアのエストニア航空(Estonian Air)というのがある。

同社も最大の株主はSASで所有比率は49%となっている。

その他にはエストニア政府が34%、そして投資会社Baltic Cresco Investment Groupが17%をそれぞれ所有している。

つまり、エストニア航空に関しては、過半数を超える株主は存在していないことで、企業戦略が中途半端な状態にある。

それによって、拡大路線で行くのか縮小路線で行くのか、最近までハッキリしていなかった。

同社は、この経済環境の悪化とairBalticの台頭、そしてリガ国際空港の拡張を踏まえ、漸くその路線を明らかにした。

同社は今後、国際線を縮小し、より国内路線を拡充する方向に舵を取ることを決めた。

つまり、バルト3国の他社とは競合しないということらしい。

内向き路線に戦略を変えたことでこれまでのような規模での収益が見込めなくなることは必死で、今後は、airBaltic同様にSAS持分が売却されるようなことになれば、バルトの空に淘汰の波が訪れることになる。

SASによるバルト3国撤退機運の高まりから、バルトの空を巡る争いがこれでより明らかになった事になる。

構図は至って簡単!

地域シェア最大のairBaltic VS flyLAL

非参戦のEstonia Air

さて、だれがこの空域を制するのだろうか?!


前編おわり


後編:自国のハブ化構想からダンピング訴訟に発展!

airBalticを巡る各国のハブ化構想がここにきて大きな歪を生んでいる。

airBalticにそっぽを向かれたflyLALが今度は同社にダンピング疑惑を訴えてきた。

flyLALの言い分は、airBalticのヴィルニスとリガを結ぶ航路の航空券代が双方で違うというもの。

そして、この価格ダンピング疑惑をflyLALはヴィルニス裁判所に提訴してしまった。

訴訟相手は、airBalticとリガ国際空港。

同社試算によると、このダンピングにより同社としては4000万ラッツ(約72億円)の損害を被ったらしく、ヴィルニス裁判所はこのflyLALの提訴を受けairBalticとリガ国際空港の不動産を凍結保全すると一方的な判断を下してしまった。

*資産凍結とはなったが、airBalticもリガ国際空港も日常業務は滞ることなく、毎日問題なく稼動しています!

flyLALとしては、airBalticとリガ国際空港は、flyLALの事業の妨害を結託して行い、市場から追い出すが如く、破綻させることが目的であったと裁判では強く主張している。

しかし、なぜリガ国際空港がここで取り上げられているかというと、flyLALによると、同空港は、airBalticだけを特別視して巨額な税控除を出していることで他社の営業妨害をしているというロジックとなっている。

*airBalticが受けている空港利用料の減免額は実に80%に達している!

ただし、実際には、リトアニアの第2の都市カウナスでも同じ様なことをしており、ただの言い掛かりと世論は今件を受け流している。

また、リガ国際空港で同じ減免控除を受けているのはライアン航空、KLMオランダ、エールフランスなどもあり、airBaltic同様にこのメリットを享受している。

バルトの空を制覇する為にリガへの就航社数を増やすことを目指して導入されたこの減免措置、ラトビアとしても地域の競合他社を出し抜き、リガのハブ化に励んでいることにリトアニアが噛み付いたという構図だ。

とはいっても、カウナスでも同様の措置を取って就航社数を伸ばしているリトアニアもやっていることは同じで、傍目からすればリガ国際空港とairBalticの成功にただやきもちを焼いているだけなのかもしれない。

この喧嘩では、airBalticは今後リトアニアへの就航便数を削減し、最悪、ヴィルニスへの就航を凍結する可能性を示唆している。

そして一方のflyLALは、この10月25日からヴィルニス-リガ路線の就航を取止めている。

両都市間を結ぶこの2社がそれぞれ空路を閉じてしまえばその不便性をまともに受けるのは利用客となる。

正に泥仕合に発展し始めている両社だが、flyLALには元々、自社の経営危機が燻っていた。

実はこの喧嘩の裏には、そもそも存続の危機に立たされていたflyLALの懐事情というのが隠されている。

flyLALとしてはairBalticの買収により勢力拡大を目指す機運はあったが、実際にそれを出来るだけの資金があったかというととても疑わしい。

SAS持分の株式取得が困難になったflyLALでは、今度は自社をairBAlticに買収する意思を確かめるといった行動に出ていたという。

ラトビアのAinars Slesers運輸大臣は、メディアに対して、flyLALがairBalticに同社の買収を提案してきていたと暴露してしまった。

しかしながら、airBalticは既に同社の財務内容の悪化を把握しており、買収提案を棄却している。

そこで2度に渡ってそっぽを向かれた同社は、裁判所にダンピングの提訴をしたという経緯があるようだ。

もし裁判で72億円もの賠償金を獲得できれば、容易に会社の再建が果たせるという皮算用が同社にはあった。

SASが考えていたairBaltic株の売却額は3000万ラッツ(約54億円)から5000万ラッツ(約90億円)と見られている。

flyLALがどうやってこれだけの買収額を調達しようとしたかは定かではないが、損害賠償額が妙に売却希望額に沿ったものとなっているところが悩ましい。

ラトビアとしては、flyLALが勝手に破綻し、その後、市場をairBalticが寡占もしくは独占できた方がメリットは大きいと判断している節がある。

確かに、破綻した後にflyLALの資産を買い取った方が何倍にも安く買い叩く事が出来る。

それを裏付ける発言をラトビアのAinars Slesers大臣が漏らしている。

同大臣によると、flyLALもEstonian Airも直に破綻するというものだ。

同大臣は、flyLALはこの冬に破綻すると時期的な事にも言及しており、新たな投資家が現れない限り、同社の先行きは暗いということらしい。

そしてEstonian Airについても、タリン国際空港が依然地域のローカル空港という戦略を続けている以上、これ以上の発展は望めず、ラトビアが4年前に取組んだリガ国際空港のハブ化構想の実行に大きく遅れていることで、直にairBalticに押され、シェアをますます落として行く事になると示唆している。

確かにその当事者であるEstonian Airは、短距離路線に重きを置くと事業戦略の変更を発表しており、その就航先としては、フィンランドやリトアニアなどの他、国内の地方都市への就航に資源を集中させるという。

既に同社が所有する大き目の機体(ボーイング)は売却することに取掛かっており、順次、小さめの機体(Saab製やCRJ900)に換えていくという。

今後の主要路線は、ヘルシンキ、ヴィルニス、クレサーレ、タルトュなどになる。

つまり、既存の欧州路線は、採算が合わなければ、直ぐにでも就航をやめるというつもりらしい。

結局、早々に取組んだリガの地域のハブ化が功を奏した形で、airBalticとリガ国際空港が最後に笑うという構図が出来上がっている。

airBalticとすれば漁夫の利ではないが、競合他社が市場から自発的に去っていくことになれば自ずとバルトの空を制することが出来るということだ。

リガ国際空港が周辺の声を無視してでも率先して空港利用料を大幅にディスカウントして格安航空の就航に次々と成功したことが、バルト3国での地位を確立し、漸くここで野望を叶えるところまで来ているようだ。




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