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07年1月1日からブルガリア、ルーマニアがEU加盟を果たすことが決まり、巨大化する欧州・中東欧に続き、巨大市場として台頭しつつあるロシア、GDP成長率が10%を上回るバルト3国、国営企業の民営化を急ぐCIS諸国といった地域の経済状況などの情報を配信しています。

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天然ガス問題

年末年始を騒がせたウクライナ−ロシア間の天然ガス問題が年明け後にようやく問題解決の合意を迎えた。多くは新聞やそのほかのニュース媒体で報道されているので、ここではその経緯や結果に焦点をあわせることはしないようにしたい。

ウクライナは昨年末を締め切りとしたロシアの契約締結期限を最終的に拒否する形で欧州を巻き込むエネルギー危機を併発させる可能性をカードに欧州各国やアメリカを巻き込んでロシアとのエネルギー協議を進めてきた。これにより、06年1月1日から数日間、実際にロシアはガス栓を締め、ウクライナ向けのガス供給量を落としてしまった。

ロシアはもともと1000立方メートルあたり50ドル程度で購入していた天然ガスを230ドルに引き上げて契約するように強要してきたのだが、結果としてウクライナとしては実質95ドルで購入といった合意?となり、ティモシェンコ大統領の外交の上手さが喧嘩両成敗の結果をもたらした。ロシアとしてはあくまでも欧州向けと同じ国際価格をウクライナと契約したとしていますが。(契約内容は、ウクライナはロシア産天然ガスを230ドルで購入し、トルクメニスタン、カザフスタンなどの安い天然ガスをロシアに委託購入を行い、ウクライナの入り口でロシア産のものと併せてることで、実質95ドルといったトリックを使うことで両者の面子を守ることに成功した。これにより、独自にウクライナがカザフなどと結んでいた購入契約を放棄する結果となった。)

ロシアが実際にガス栓を締めたか否かであるが、実際にウクライナ向けには2つのガスパイプラインがあり、1つはウクライナ向け、そしてもう一つが欧州向けと分けられているのであるが、ハンガリーやその他の欧州でもガスの供給が減少したとしていることから、恐らく、ウクライナがロシアがウクライナ向けとして供給していたガスパイプラインの供給減分を勝手に抜き取ったのではと大半の西欧媒体では報じている。日本の報道では、報道内容が親米寄りであることから、ロシアが一方的に悪者に仕立て上げられているが、もし実際に勝手にガスの抜き取りを行っていたのであれば、これは犯罪行為となる。

兎に角、ウクライナとしてはガス購入価格を実質95ドルと経済がなんとか成り立つとされる100ドルの壁を下回る価格で契約を締結できたことはCISの中でもやはり大国であることの証となった。

それに比べ、小国扱いのモルドバでは大変なことになっている。モルドバはこれまでにロシアから天然ガスを1000立方メートルあたり80ドルで購入してきたが、ロシアは2倍の160ドルで契約を結ぶように強要している。経済規模も小さく産業
も殆ど育っていないモルドバとしてはエネルギー価格が唐突に2倍となることには受け入れられないといった実情がある。

因みにモルドバにはガスプロムが50%の株式を保有するモルドバガスという企業があり、この会社が実質的にモルドバのガス市場を独占している。この会社の政府持分は34%でその他にロシア系住民が多数居住するトランスドニエストルが13%を保有している。

モルドバも昨年末までにロシアとの間でガス価格を巡って協議を依頼してきたが、ロシア側の強固な態度で完全に無視された形となっている。今現在でも実質、新契約は締結されていないことで、エネルギー危機への懸念はウクライナのものよりはるかに大きなものとなっている。モルドバの持つカードは、バルカン諸国向けのガスパイプラインがモルドバを通っており、ウクライナ同様にロシアへガスの通過料の引き上げを求めている。これによりエネルギー危機がささやかれているのはブルガリア、ギリシア、トルコなどの諸国。

実はモルドバでは現在、さほどエネルギー不足の危惧が話題には上がっていない。というのもモルドバのガスを支えているのがウクライナで、現在、ウクライナはモルドバのガス不足分を供給する2国間合意を結んでおり、何とかモルドバはこ
の冬を過ごすことが出来そうな状態となっている。

ウクライナやモルドバの動きに中東欧の諸国からこれまでにロシアと結んだガス価格の見直しを求める動きが活発となっている。

既に見直しを要求したのはルーマニアやブルガリアで、モルドバ同様にまだまだ産業構造が脆弱な国家が多い。ルーマニアが結んだ新契約では、30年の長期契約として270〜280ドルで購入といった西欧諸国より高価なガスを購入させられる契約となっている。

そのほかの諸国で今回のガス価格引き上げで値上げを受け入れることになった諸国にバルト3国があります。バルト諸国ではこれまで1000立方メートルあたり80ドルであったものが今後は120〜125ドルで購入することで合意している。また、ロシアと同じCIS諸国となる アジェルバイジャン、グルジア、アルメニアなどもこれまでの60ドル前後の価格から110ドルへと値上げされ、今後の経済成長へ大きなダメージとなることは間違いないと見られている。

バルト諸国も07年もしくは08年にユーロ統合を目指すが、エネルギー価格の高騰により、インフレ傾向が止まらず、統合時期を延期せざる得なくなってきている。各国は依然、強気に予定時期の統合を強調するが、EUでは高インフレになりつ
つあるこれらの諸国を素直に統合を許可する方向には無い。

各国の動きを紹介してきたが、ロシアが実際、悪質な卑怯な国家であるかというと正直そうも言えないことに気付かされる。というのも、世界の国際ガス取引では、ガス価格は250ドルといった価格が決して高いものではなく、標準的な価格
であるという事実である。ロシアはソ連邦崩壊後も、旧共産諸国へ、兄弟分として、引き続き廉価なガス価格を供給してきた。この何年か親米政権となるこれら兄弟諸国が反ロシア色が強くなる中、国際スタンダードなエネルギー取引を求めるのも当たり前なのである。

決して、ロシアがウクライナへ求めた230ドルといった水準は、世界水準から4倍増といったものではなく、世界水準から4分の1であった不均衡を正そうとしたに過ぎないのだ。

また、今回唐突にウクライナへガス価格の引き上げを求めたかのような報道がなされているが、実際、ウクライナへ価格引き上げの提案を持ち出したのは05年3月で、まったく唐突に出されたものではない。

自身に反するものに、誰がお人よしにやさしく接し続けるだろうか?というのが今件の背景にある実情である。

ただし、親露政権を貫くベラルーシ向けのガス価格がこれまで通りの46.68ドルで据え置かれたことから見ると、ロシアはエネルギー資源で外交を操ろうとしていることは確かなようだ。

親欧米政権のウクライナやバルト諸国の今後はやはりエネルギー資源をロシア依存から脱却できないままでは、独自路線を模索しながらも、やはりロシアを無視した行動を取り続けることには限界があるのかもしれない。


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